(このページ…濃いな…)
妄執 何も分かってなんかいやしないんだ。君は。 へたな兵士や戦士なんかより腕が立つから、 余裕を見せていられる。安心していられる。 君が羨ましく思っていると言った僕の力だって、 それが自分に向けられることがあるなんて、 思ってもいなかったんだろう? 君が安心しきって背中を任せている相手の頭の中なんて、 君は考えてみたことさえ無いに違いないんだ。 僕の力だったら、簡単に折ってしまえるようなその細い手足を縛り付けて、 後宮の奥深くに繋ぎとめて、 誰の目にも触れさせずに、 僕だけのものにしたいと考えているなんて、君は知りもしないんだろう? そんな安心しきった顔を僕に見せて、 だから君は馬鹿なんだ。 |
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焦燥 気付いたら押し倒していた。 最初は頭に血が上っていたから気付かなかったが、 よく俺の力でこいつを押し倒せたものだと不思議に思う。 頭が冷静になってくると、相手の状況も見えてきて、 その表情が慌てるでも、驚くでもなく、 悟りきったような、見透かしたような顔だということに気付き。 俺は何だか、悔しいんだか泣きたいんだか、 兎に角、訳も分からず苛立たしくなって。 思わず。手をあげていた。 ぱんっ、という乾いた音が響いて、そこで俺ははっとなる。 じんじんと脈打つ掌と、赤く跡のついた相手の頬。 「…あ…、ご、めん」 自分でも驚いて、うわ言のように謝れば、 またしても相手はあの顔を俺に向けるから、 俺はもう、どうしていいのか分からなくなった。 |
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日常 何食べてく? そんな会話をしながらこいつの部屋へ帰る道。 今度の日曜バイト休みなんだけど、どっか行かないか? 当たり前のように、一緒に休日を過ごすこと。 家事は俺がやるって言ってんだろ? 俺は「ここ」では何も出来ないから、少しでもこいつの役に立てることを探す。 そんな日々が、日常になっていきそうで恐い。 「ここ」に来て大分経つ。 でも、一向にアレフガルドに還る方法は見つからなかった。 こいつのことは好きだ。 むしろ、 これ以上好きになりそうで、それが恐い。 恐くてたまらない。 だから、 俺は少しでも、一秒でも早く還りたかった。 俺の日常は、あの雪原と、血と、 あいつの背中なのだから。 |
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確信 俺も大概だが、こいつも大概だ。 こいつが周りに向けている姿の全てが、 嘘偽りに過ぎないと気付いてから、 俺の疑念は確信に変わった。 多分、いや、こいつは頭が良い。 俺よりも歳は上で。 何をするにも、俺より手際は良いかもしれない。 それでも、こいつはとことん馬鹿だ。 頭が良過ぎて、自分がついている嘘でさえ、嘘と分からなくなってしまった大馬鹿だ。 俺のことをガキだと思ってるならそれでいい。 ガキの戯言だと高を括っていればいい。 あんたが、子供だと甘く見ている相手に泣かされて、 現実を見ればいいんだ。 世の中、嘘だけで生きていけるほど甘くはないって、 あんたは知っているんだろう? |
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体温 ずっと。本当に長い間。 何年も何年も、 何を頑なになっていたのだろうと。 そう、思った。 今までの自分達が間違っていたわけではないけれど、 それは正解でもなかったんだと。 そう、思った。 例えばこいつの少し高めの体温だとか、 冷えていることが多い俺の指先だとか、 そんなことにふと気付くことの方が、 尤もらしい理由を付けて、 見てみぬ振りをしていた今までよりも、 ずっと、ずっと、自然なことのように思えた。 |
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