見つけ出したら、一発ぶん殴って。

思いっ切り、罵って。そして。 

そして――― 

力一杯抱きしめてやろう。

 

 

半身

 

 

ロランが失踪した。

その知らせが秘密裏に俺の元まで届いたのは、アイツがローレシアを出奔してから大分日が経った頃だった。
反乱の兆しがあったわけではないが、ローレシア国内に良くない空気が広がっていたのは風の便りながらも伝わっていた。
俺達が破壊神を討ってより暫くしてからか。ローレシアでは、新国王に対する畏怖、いや、疑念とも呼ぶべき人心の乱れが俄かに現れたのだ。
破壊神の脅威から解放された人々は、破壊神を打ち倒したその人、つまり自分達の王に対し恐れを抱き、人あらざる存在として彼に非難の目を向けたのだった。

そんなふざけた話があって堪るか。
俺達は何のために戦った?何のために犠牲を払った?

そう思ってみたところで、隣国の惨状に俺が関与できるはずもなく。
日々、ローレシアを。いや、彼の心中を思い、手を拱いていることしか出来ない己の無力さに焦燥を募らせていた。

その矢先だったのだ。ローレシア国王失踪の知らせが届いたのは。

俺は、ローレシア国内にもまだ知られていないその事実を聞きつけ、取るものも取り敢えずサマルトリアを飛び出した。

あの、どこまでも真っ直ぐなロランのこと。何を思い。何を考え。そして姿を暗ましたのか。
考えるだに、恐くて恐くてどうしようもなくなった。
自分のことなど二の次で、馬鹿みたいに優しくて、そして、誰よりも傷つきやすい。
そして、全て自分一人で抱え込んでしまおうとする。

だから、見つけ出したらまず言ってやりたかった。
何で、俺に一言もなくいなくなった?俺はそんなに頼りにならないか?俺はお前のなんだ、と。
考え無しの、大馬鹿野郎だと罵って。一発じゃ気が済まないかもしれないから、二発ぐらいは殴ってやって。

そして、何も言わずに抱きしめてやりたい。

だって、俺にはそれしか出来ないのだから。

 

 

 

幾つかの町を巡っているうちに、ルーナと再会した。
案の定、彼女も失踪したロランを探すため国を飛び出したらしい。
再会を祝う余裕も無く、二人で世界中を巡る最中、俺達はロランを見つけ出したらどうしてやろうかということばかり話し合っていた。

一発殴ってやるんだから、と俺と同じことを言ってのけた彼女は、またも続けて同じ台詞をはく。
一発殴って、そしたら二人でうんと力一杯抱きしめてあげましょう、と。

 

 

 

果たして、ロランを見つけ出したのは。
俺達の時代から数百年も先の世界だという、雪に閉ざされたロンダルキアだった。
この世界がどんな所かは詳しく知るところでは無かったが、ロンダルキアに至る途中訪れたローレシアの惨状に、酷く苦い思いをした。
それは、胃の腑が冷えていくような戸惑いと、指先から崩れ落ちていくような恐怖だ。
かつて、この国の王子が姿を消し、そして共に朽ちていったという昔話。
本当にそれが、あのローレシアの末路なのだろうか。

そんな話に耳を傾けたくないと思いながら、辿り着いた先に見出したロランは、今正に己の命を手放し、自らのその生に終わりを告げようとしている姿だった。
生きる意欲のない魂にザオリクがすり抜けていく。
自ら死の淵に歩み寄るロランに、俺は怒り以上に悔しさを覚えた。


どうしてこいつはいつも。いつも自分ばかりを責めて、そして諦めるのか。
化物ではなく、「人」として死のうとするロラン。
呪文を通して伝わってくるその想いに、そうはいかねぇと、そうはさせねぇ、そうさせて堪るかと俺は歯噛みした。 

俺の声が届いたのか。それは分からない。
けれど、彼は、俄かに起き上がり。そして、俺達を振り返って、笑ったのだ。

 

 

 

 

数百年後だという「この世界」が救われ、俺たちの時代に戻ってきてまず、俺とルーナは予告通りにロランを思い切りぶん殴ってやった。
馬鹿だとか、考えなしだとか色々言ってやりたかったが、結局何も言えずに三人で抱き合ったり、小突き合ったり、笑い合ったりしているうちに、胸が一杯になって、それ以上何も出来なくなってしまった。

何かあったら、いつだって、どこにいたって貴方の力になるからと告げ、ムーンブルクに戻っていったルーナ。
その涙混じりの姿を見送って、俺達も国に帰るために歩を進める。

けれど、俺はその前に、一言だけこいつに言っておきたいことがあった。

 

 

 

俺達の国、サマルトリアとローレシアの中間に位置する町、リリザ。
この町は、いつしか俺達にとって掛け替えの無い場所となっていた。
それは出会いのせいだったのかもしれないし、それ以上に培った思い出のせいかもしれなかった。
だから、というわけでもないのだが。
俺は国に帰る前に、ここでこいつに言ってやりたいことがあった。
馬鹿だと罵ることもそうだったけれど、それ以上に言ってやりたいことがあったのだ。

見慣れる程ではないが、何度も訪れたことのある宿の一室。
俺は、部屋に入るなりきょとんとしているやつに殴りかかり、たたらを踏んで、腰を着いた相手に馬乗りになって腹の底から怒鳴ってやった。

 

「俺に無断で死のうとすんじゃねぇよ…っ!」

 

胸倉を掴んで睨め付ければ、ロランは、サトリと俺の名を呟いてごめんと項垂れた。
ごめんで済むと思ってんじゃねぇ。見当外れな謝罪も大概にしろと言ってやれば。
じゃあ、どうすればいい?と真剣な顔で訊かれ。俺は堪らず、その唇に噛み付いてやった。
一瞬戸惑いを垣間見せたロランだったが、それだけで俺の想いが伝わったのか、応えるように口付けが深くなった。

何も出来なかった己の不甲斐なさだとか、憤りだとか。

そしてそれ以上に、己が半身を失いそうになった、その恐怖を。

その想いが伝染したのかもしれない。
拭い切れないその恐れを掻き消すように、俺達は互いの存在を確かめ合った。
熱を交し合うその行為に、どれほどの意味があるとは思わない。
それでも、分け合った体温に涙が零れる程の安堵を覚えるのは、俺がこいつを想っているという確かな真実だった。

隠しようも無くぼろぼろと涙を伝わせていると、何を勘違いしたのか、ロランは、ごめん痛かった?と慌てて見当外れな気遣いを見せるものだから。
俺は何だか、馬鹿みたいに可笑しくなって、愛しくなって、その首にぎゅっと腕をまわして顔をうずめた。

 

 

 

ロランがローレシアに戻り、また、幾許かの時が経った。
彼の帰還後、暫く慌しい様相を呈していたローレシアだったが、彼本来の人徳が成せるところか。
それ以来、サマルトリアに不穏な情報が流れてくることは無かった。

 

もしまた、こんなことがあったら。

そうだ。手を拱く前に。

ローレシアに行って、アイツを思いっきりぶん殴ってやろう。

そして、



力一杯抱きしめてやるんだ。


そう、誓った。

 

 

 

 
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DQM+のロランとサトリを、自分フィルターで脚色した何だかよく分からない話。

なんつーか、あのロランさんは非常に危なっかしいというか、サトリが非常に格好良いですよね。

もう、大好き!!で、こんなん書いちゃって申し訳なさで居た堪れないわ…orz

 

 

 

 

 

 

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