「陛下、お久しゅうございます。この度は、私の為にサマルトリアまでお越し頂き、感謝致します。」

立太子礼が無事に終わり、国を挙げての宴へと場を移そうとする最中、息を切らせた声に振り返れば、そこには皇太子の名を授かったばかりのサマルトリアの王子がいた。
ロランは、慌てて駆けて来たのであろう王子を認めると、恭しく礼をとった。

「殿下、この度の立太の儀、我がローレシアに代わり厚く御礼申し上げます。」

ロランが片膝を着き目線を合わせて微笑むと、齢十を迎えたばかりの王子は、頬を上気させ、慌てた仕種でもう一度深く頭を下げる。

「あ、ありがとうございます…!」

サマルトリア王、サトリの面影を色濃く映したその顔立ちに感慨が募る。

大きくなられたものだ。

子の成長は早い。今年で7歳になる我が子を思い、そしてその年月を思い、ロランは苦笑を漏らしそうになる。
だが、それを何とか胸の内に留めると、彼は改めて少年に笑顔を向けた。
すると、かつかつという靴音と共に、呆れた物言いが少年の後ろから近づいてくる。

「ロラン、人の息子を誑かすのもほどほどにしとけよ?こいつ、お前の信者なんだから」
「…ち、父上っ!」

真っ赤になって怒鳴る息子の肩に手を置いて、可笑しそうに笑うその顔に目が奪われた。
そして、呼吸さえも奪われていたのかもしれない。
あの頃から年月を感じさせない、その笑い方にロランの喉が詰まった。

肩口まで伸ばされた蜜色の髪がさらりと流れ。
左耳に飾れた翡翠の飾りが笑う度に涼やかに揺れる。

「久しぶりだな、ロラン」
「……サトリ」

彼に会うのは何年ぶりか。
今日の様に国の式典などで顔を合わせることもあるが、そう頻繁にあることでもない。
面と向かって言葉を交わすのは数年ぶりのような気さえした。

「ロウエン、先に行っていなさい」
「あ、はい、父上。それでは陛下、失礼致します」

サトリの言葉に従って、ぺこりと頭を下げる少年の姿に、俄か現実に引き戻される。
ぱたぱたと足音を立ててその場を離れていく後姿を見つめていると、不意に近くから声を掛けられ我に返った。

「良い子に育ったもんだろう?」
「ああ、君に似ず素直で真っ直ぐな子みたいだな」
「…おい、それは厭味のつもりか?」
「え、あ。いや、そんなつもりじゃ…」

思わず口から零れていた言葉に慌てる。
口を押さえ誤魔化そうとすれば、サトリはあっけらかんと笑ってのけた。

その顔が次第に父親の顔になっていく様を見遣る。

「どうせ俺は捻くれ者だよ。まあ、あいつの気性は母親に似たんだろうな。って言っても、俺の前では中々の跳ね返りだ。さっきのは、お前の前だからしおらしくしていたみたいだが…、なぁ英雄王ロランさん?」

くすくすと呟かれたその名に、ロランは眉根を寄せた。

「その名前、いい加減止めて欲しいよ、本当に…」

あの旅の終わり。即位と同時に囁かれだしたその名は、今となってはロランの代名詞と化していた。
ローレシア国民に愛されるその名は、ここ十数年の間に、隣国の少年達の憧れの的にもなっているようだった。

「別に言わせておけば良いじゃねぇか。減るもんでもなし」
「減るものって…」

辟易とした顔を見せるロランに苦笑をして、サトリは続ける。

「あの子にもよく強請られるんだぜ。英雄王の話を聞かせろってさ」
「…それで君は何て話すんだ?」

興味本位で訊いてみた。
するとサトリは、ありのままだよ、と言って笑う。

「お前がどんだけ真面目くさってて、抜けてて、お人好しでお節介かを事細かにな」
「サトリ…」
「まあ、そういう話をしても『嘘だ!』とか言って聞いてくれないんだけどさ。…何を夢見てるんだか」

そして彼は、そのままの口調でこう言ったのだ。


「俺よりお前のこと知っているヤツなんて、いやしないのに」


おそらく。いや、絶対に。
彼は、その言葉にそれ以上の意味なんて込めてはいない。
本当にそう思い。裏も表もなく、ただそう認識し、事実としてその言葉を口にのせたのだろう。

だからこそ。それ故に。
ロランは、ふつふつと湧き上がる怒りを感じていた。
そして同時に、悔しさと行き場のない想いが醜く歪んで絡み合い、心拍数を上げていく。

頭が痛い。苛立ちのような感情が、がんがんと心臓と頭を打った。

「そう言えば。お前んとこの子は?確か来てたよな」
「ああ。先に行かせているよ。今頃、ロウエン殿下と会えていれば良いが…」

己の胸中など気付きもしない相手には、気付かせる必要なんてない。
今更気付かせても仕方がない。
ロランはあくまで平静を装って、その質問に答えた。

「まあ、子供なんてのは勝手に会って、勝手に仲良くなって帰ってくるだろうよ」

サトリは長く続く回廊の奥を見遣るように、自分の子供時代へ思いを馳せているようだった。
その視線の先に、かつての自分達を見た気がして、ロランは緩く頭を振った。

サマルトリア城。
いつの間にか30年近くも前になってしまったあの日。
彼に出逢わなければ。
そして、16年前のかの日。
彼と旅に出なければ。

何度思ったか分からない。

それでも。

後悔以上に、彼との年月に執着している自分がいた。

 

 

□■□

 

 

「ロラン、入るぞ」

満月にはやや欠ける月が中天に差し掛かる頃。
ノックも半ばに部屋の扉を押し開け、来客があった。
窓際に椅子を寄せ月を仰ぎ見ていたロランは、顔だけを声の主、サトリへ向け、苦笑を漏らす。

「こんな夜更けに、どうかしたのかい」
「ほら、これ」

そう言うなり、ぽんと投げ渡されたそれを受け止め、思わず苦笑が深くなった。

「これに付き合えって?」
「そ。どうせ、まだ寝るつもりじゃなかったんだろ。…13年もののワインだぜ、それ。」
「13年…」

手の中のボトルを月光に透かし見れば、なるほど、あの時の年号が刻まれている。

「俺達の凱旋祝いに作られたやつ」
「…13年、か」

ぽつりと呟けば、サトリも感慨深げに息をつく。
あっという間って感じだけど、結構経ったんだよな。
そんなことを言いながら、彼は部屋の隅に置かれている棚へと足を向け、グラスを探しているようだった。
その後姿から視線を上げると、ロランはきつく瞼を閉じる。

英雄の帰還と新たな王の誕生に沸く国民の歓声。
そして、淡々と紡がれた彼の謝罪の言葉。
その二つが耳の奥に蘇る。

13年前のあの日は、今この時になっても。
13年という長きに亘り、まるで昨日のことのようにロランの前に蘇った。
後悔は悔恨となり、想いは妄執へと姿を変えていく。

「どうかしたか?」
「いや。何でもないよ」

見つけてきた二つのグラスと一緒に引っ張ってきた椅子に腰を掛け、サトリが心配そうにロランの顔を覗き込む。

久しぶりに間近で見るその顔に、思わず視線を逸らしてしまった。

「あの頃のことを、少し…思い出していたんだ」

誤魔化すように笑えば、どうやら相手はその言葉に乗ってくれたらしい。
納得したように、ロランの言葉に続いた。

「楽しかった、よな。こう言っちゃ、不謹慎かもしれないけどさ」
「ああ、本当に」

その後は、懐かしい香りのする酒の力も借りて、昔語りに花が咲いた。

ただ、昔語りをするその言葉の裏では、経た時間の分だけ歪んだ想いが悲鳴をあげている。
彼とこうして話をすることに幸福を感じているのは事実だが、それ以上に苦しくなってきて、ロランは徐に口を開いた。

「サトリ、そろそろ―――」
「ロラン…」

そろそろ大分月も傾いてきた、お開きにしよう。
そう続けようとした言葉は、彼に名を呼ばれ、喉の奥に消えていく。

「ん?」

名を呼んだきり先を続けないサトリを顧みれば、彼はひどく穏やかな顔をして月を仰ぎ見ていた。

「今だから言えるのかもしれないけど、さ」
「うん」
「あの時の俺って、本当に若かったんだって、思うよ」
「………」

彼が言わんとしていることが見えず、黙して耳を傾けていると、彼は自嘲するように息を震わせる。

「笑えるぐらいに一杯一杯でさ。自分のことで精一杯。周りのことばっかり考えてるつもりで、実際何も見えていなかった」

そこで一度口を噤むと、彼は瞼を伏せる。

「…お前のことも、ちゃんと、見ようとしてなかった…」
「サト…リ」

ぽつぽつと零れ落ちる彼の独白に、喉の奥が、いや胸の奥深い所が乾いていくような錯覚を覚える。
彼が言おうとしていることが。続く言葉が。
恐らく、自分にとって取り返しのつかない刃となることを、不思議と感じ取っていた。

「…ロラン。あの時、俺にもっと余裕があったら、さ」
「…………」
「お前のこと、受け入れられていたと思うよ。」

穏やかなその声音に、目の前が傾ぐ。ひどい眩暈を覚えた。

「俺は、お前のこと―――」
「………るな」
「え…」

俯いたロランから漏れ聞こえた声が聞き取れず、サトリは訝しげに耳を傾ける。
と、不意に顔を上げたロランに胸倉を掴まれたと思った次の瞬間。
サトリは強い力で椅子から引き摺り上げられていた。

「なっ…何すんだよ!」

豹変した相手。いきなりの事に覚束ない足でなんとか床を踏みしめ声を荒げれば、それ以上に荒々しい声音で叫ばれる。

「――け…な。ふざけるなっ!」
「ロ、ラ…?」
「今更何を言おうとしたっ!?今更っ…!君は…っ」

ここまで怒りに駆られた彼を、サトリは見たことがなかった。
服を掴むその腕が、怒りで震えていることに当惑する。
腕を放させようとしても叶わずに、サトリは困惑したまま相手の言葉を受け止めるしかなかった。

「言いたいことだけ言って。押し付けて。一人だけ逃げようっていうのか?全部過去のことにして。思い出にして…っ!」
「…ロラン」

次第に相手の顔が泣きそうなそれへと変わっていくのを、呆然と見ていることしか出来ない。

「君はそれでいいのかもしれない。君の中では決着がついたことなんだろ?…でも、俺はっ!俺は、まだ…!まだ、そんな風に笑って割り切れやしない…!!」
「ロ、ラ…っ、くるし、離せ」

有らん限りの力で掴まれた服がぎりぎりと喉を締め付け、次第に呼吸が上手く出来なくなってくる。

「や、め。離―――ん、んぅっ…!」

酸素を求め喘ぐように開いた口を、噛み付くように塞がれ、拒絶の言葉さえ奪われた。

「ぅ、んんっ。…ゃめ…っは!」

あまりの苦しさに顔を振ってそれから逃れると、掴まれた服を急に放され、サトリは崩れ落ちるように床に倒れこんだ。

「はっ…、あ」

一気に入り込んできた空気に噎せ返りながらも息を整える。
そのまま肩で息をしていると、不意に頭上から声を掛けられた。

「…なあ、サトリ」

俄かに囁かれたそれが、いつもの彼の穏やかな声音に近いことに気が付いて、サトリは微かな安堵と共にその顔を上げる。

「…………っ」

が、見上げたその顔は先と変わらず怒りを湛えたままで、知らず息を呑んだ。

「サトリ」
「…な、んだよ」

じわりと近づいてくるだけ後退されば、ロランはその倍の距離を詰めてくる。
程無くして、ひやりと肩に触れた石壁の感触に、逃げ場がなくなったことを悟った。

「受け入れられると思ったのは、俺の、どの言葉に対して?」

あの日彼に告げられたのは。

好きだ、という言葉。
愛している、という想い。
抱きたい、という願い、だった。

「…それ、は」

全部だ、と。そう答えてやりたかった。事実、自分の想いはそうだった。
だが、この状況で言えるわけがない。
それは、彼に対して酷く残酷で最低な言葉だと分かっているから。

ロランに言われた通り、自分は過去の出来事として、この想いを閉じてしまいたかっただけなのかもしれない。
あの時こうだったら、ああ出来たかもしれない。
そんな言葉は、結局そう出来なかった自分への言い訳に過ぎない。
実際、受け入れることが出来なかったのに、今更何を言ったところで奇麗事だ。
あの時背を向けた自分の想いと相手の想いから逃げるための、口実にしか聞こえやしないだろう。

「……………」

何も言い返せずに、俯くことしか出来なくなって、サトリは拳を握り締めた。
掌に食い込む爪の感触がやけに鮮明だった。

一向に黙して語らずの彼。
その様子に何を思ったのか、ロランはサトリの腕を掴み挙げると、抵抗を許さない力で引き摺り上げた。

「なっ――」

驚きと混乱から抜け出さないうちに、ロランはサトリを寝台へと突き倒す。

「な、何す――」
「何って…、受け入れられると思ったんだろう?」
「ゃめ、ろっ…。――うぁ」

サトリの返答を待たずにしてその身体を押さえ込むと、彼は苦しそうに呻き声を漏らした。

「サトリ」
「ん、んっ」

執拗に唇を貪れば、次第に彼の身体から力が抜けていく。
だが、辛そうに寄せられた眉根が緩むことはなかった。
その表情に、痛みと同じぐらいに暗い苛立ちが胸を刺し、ロランはきつく目を閉じる。

君は最低だ、と。自分勝手で身勝手で、卑怯で。
どこまでも愛しいのだと。
そう言って、このまま抱き殺してやりたかった。

だが、それが出来ない程に、自分が彼を大切に想っているのも紛うことなき事実で――。

「サトリ」

ロランは、常に懐に忍ばせているものに手を伸ばすと、苦しそうに荒い息をつくサトリの手にそれを握らせた。

「な……、に」

己の手に握らされたそれに気づくと、苦しそうに歪んでいた彼の顔が、怯えを滲ませる。

「嫌だったら、それで俺を――殺せ」
「………っ」

握り込まされたのは、銀色に鈍く光る懐剣だった。
雲に呑まれていた月が俄かに姿を見せ、その刀身を冷たく映し出す。

懐剣を握りこむ手を更に上から掴まれ、そして、ロランの首筋へと導かれた。
有無を言わせぬその力に、懐剣を握る手が震えだす。

「ここだ。一突きで十分だ」
「なん……で」

手だけでなく喉まで震わせて、たどたどしく呟かれたその詰問に、ロランは笑った。


「君を苦しめたくないからだよ」


穏やかと言うには熱を孕んで、幸福と言うには泣きそうな。
そんな顔で言われても納得出来るはずがない。頷けるものか。

「ふざけるなっ!」
「…サトリ」

一人で解決しようとしているのはどっちだ。逃げているのはお前じゃないか。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。

「俺は、王殺しの名を着るつもりはない」
「………」

無言のまま、ロランはサトリの頬に手を添えた。

「お前を殺しても、サマルトリアに戦火が及ぶだけだ」
「………」

刃が喉に食い込み、薄く血を滲ませるのにも構わず、ロランは身体を倒していく。

「殺したところで救われるのはお前一人」
「………」

唇が触れる直前まで迫れば、首の皮膚がぷつりと赤い雫を零した。

「俺は一生お前を殺したことを悔いて、お前だけに縛られて生きていくのか?」
「………本望だよ」

この上もなく幸せそうに告げられて、サトリは背筋を震わせた。

「狂ってる」
「君が、…狂わせたんだ」

刃を伝い、柄を伝い。己の手を濡らし始めた赤い雫に、サトリは震えを隠せない息を漏らす。
深く息をつき、身体から力を抜くと、ぱたりと懐剣を握る腕を寝台へ放った。

「卑怯なのはどっちだ…」

サトリのその台詞を最後まで聞かずに、ロランは言葉を紡ごうとするその唇を奪い去った。

 

 

□■□

 

 

「っふ…ぁ、あ」

服の上からしつこく胸を舐められ、そのもどかしさに吐息が漏れた。
ぷつりと主張するその先端に歯を立てられると、ひっ、と高く息を吸い込んで、サトリは首を仰け反らせる。

「ロ…ら、も、そこ、…いいか、ら」

先ほどから続く、触れるか触れないかのような愛撫に、身体の方が焦燥を訴えてきた。

「君に、無理をさせたくない」

荒々しくされたのは、最初の口付けだけで、お互い服さえ着たままだ。

「無理、じゃ、ないからっ」

こんな中途半端な状態の方が余程きつい。
サトリは湧き上がる羞恥心を抑え、自分からロランの首へ腕をまわすと、口付けを強請る。

「サトリ…っ」
「んっ、…んん、――ぁっ」

与えられた口付けを享受していると、不意に忍んできた手に直接肌を撫で上げられ、声が上擦った。
一度肌へと伸ばされた手は、これまでの撫ぜるかのようなそれとは違い、確かな存在をもって触れてきた。
服の上から散々弄られた胸の頂を爪で潰され、脇腹を撫で上げられ、服をたくし上げられながら背骨を辿り、下肢に指を這わされる。

「ゃ、あ、っア、ア」

急に齎された直接的な刺激に、サトリの目尻からぽろりと涙が零れ落ちた。
ロランは、濡れた音を立てて、それさえも吸い上げ舌を這わしていく。

長い、長い年月。淡い恋情がいつしか妄執へと姿を変えるほどの間想い続けた相手が、己の腕の中で乱れていくその様は、もはや言葉になるようなものではなかった。
愛しさや、歓喜だけではない。培った憧憬や、余儀なくされた焦燥、逃れられなかった苦しみや憎しみ。
そういった全てのものがぐちゃぐちゃに混ざり合って、ただ、彼が欲しいというその一点に集約する。

彼が言ったように、俺は狂っているのだろう。

「あ、あ。…ま、待っ―――っひぁ」

開かせた下肢の間に指を忍ばせれば、サトリは苦痛を訴えるように背を反らせ、その細い指がきつく敷布を手繰り寄せた。
強張る身体を宥めすかし、指を増やす頃には、息も絶え絶えに喘ぎを漏らし。
嫌がるように左右に頭を振ると、ぱさぱさと音を立てて、敷布に金糸が散った。
それだけで、ロランは目の前が眩むような昂ぶりを覚える。

少年時代よりも長く伸ばされたその髪を荒々しく掴み、首筋を反らせると、想いのままにそこへ歯を立てた。

「いっ…ぁ!」

薄く血が滲んだ咬み跡に舌を押し付けて、その滲み出した血さえ吸いあげれば、ひくりと身体を震わせる。
汗と涙で張り付いた髪を掻き揚げると、焦点の定まらない翠の瞳がゆっくりとロランを捉え。

そして、不意に微かに細められた。

「…………っ」

それは、彼が精一杯笑ったためだと気付いた時には、ロランは夢中で彼に口付けていた。
舌を絡ませ、角度を変えて吸い、唇を食み。
そして、濡れた音を立てて唇を交わす間に、下肢を開かせ、その間に己の身体を滑り込ませた。

「――っん、ぁ、ろら…」
「…サトリ。すまない」

不安そうに伸ばされたサトリの手を自分の背にまわさせると、ロランは口付けたまま、その身体に分け入った。

「…っんーーっ!ぅっ、ん」

衝撃に引き攣る身体を掻き抱くと、サトリの両の目からぼろぼろと涙が零れ落ちる。

「サト、リ…っ」

彼が苦痛から涙を零しているのが分かっていても、止めてやることなど出来ない。

「ひ、ぁ、ぁッ…!ゃア」

絶え間なく漏れる悲鳴。
その苦痛を少しでも和らげようと、下肢へ手を伸ばせば、彼はゆるゆると頭を振った。

「俺、…は、い…、から…っ」

お前の好きなようにしろ。
そう続いた言葉に、目を見張る。

彼の生まれながらに持つ気性か。
献身と自己犠牲を体現したかのような人だ。

自分自身を人質にとって彼を脅し、無理矢理に迫ったというのに。
そんな言葉で許されたら、もうどうすることも出来ない。

「…馬鹿」

込み上げる愛しさをその単語一つに込めれば。
サトリは、お前ほどじゃねぇよと言って笑った。

その後はただ、苦痛を少しでも拭えたらと、快楽を塗りこめるようにひたすらに彼を抱いた。
甘い声は、彼が意識を手放すまで続き。深い眠りに落ちたその身体を、ロランは陽が昇るその時まで離そうとはしなかった。

 

 

□■□

 

 

ロランがサマルトリアを後にするまでの数日。
二人の間で何かしらの変化があったわけでもなかった。
如何に関係を結んだからと言って、それで何かが変わる程、いや、変えてしまえる程。自分達の置かれた立場や境遇は軽いものではなかった。
たとえ、拗れた糸の先がお互いに繋がっていることが分かったとしても。
同盟国の国主同士、信頼と友情以上のものを周りが求めているはずはなかった。
それは、悟らせてもならないものだった。
今迄と変わらず、ただ過ぎ行く時を、再び淡々と過ごしていくことしか許されない。


「ロラン!」

ローレシアの帰路へと向かうため、近衛に引かせた馬へ歩を向けるロランの後ろから、サトリの声が追う。
ロランの周りを囲むように仕える近衛を軽く下がらせると、サトリはロランに近づき、何事かと目を瞬かせた彼の手の内にそれを握らせた。

「……サトリ」

忘れ物だぜ。と言って押し付けられたそれは、あの時の懐剣。
ロランは、何と言っていいか分からず、手の中のそれに視線を落とした。
口篭るその様子を見て、サトリが苦笑を漏らす。
そして、俄か耳元へ口を寄せると、

「お前の身柄は俺が預かってるんだからな、忘れんなよ?」

そう、嘯いた。

 

 

深緑に囲まれた白亜の城を振り返る。
人質として差し出した己の身柄は、どうやら彼の中で居場所を見つけたらしい。
何も変わらない、変えようのない関係の中。

それは二人の中でだけ、確かな変化をもたらしたのかもしれない。

 


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管理人。死力を尽くしても、この程度のヤマなしオチなしイミなし、しか書けませんでした…orz
でも、言葉通り、山も落ちも意味もないノンストーリー?になったので、それは成功ですかね!(おい)
ということで、ロラン32歳(迫り攻め)×サトリ33歳(流され受け)の、
何だかんだでらぶえろでしたーーーーーーーー。
わーーーー、ぱちぱちぱち☆(もはや自棄)

 





 

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