「…っはぁ、…お前、ちょっと今日がっつき過ぎじゃないか?」

息苦しくなって唇を離すと、久し振りだからと言って、追いかけるように直ぐにまた深く口が重ねられた。

「んっ…、ぁ。んぅ」

くぐもった声と、耳にまで届く濡れた音に背筋が粟立つ。
思わず相手の背にまわした腕に力を込めながら、今日は「朝まで」っぽいな、と苦笑交じりの思いが脳裏を過ぎった。

ロランに逢うのは半年ぶりだ。
数年単位で逢わなかったこともあったし、極稀に数か月毎に顔を見ることもあった。
本当に「会う」だけのことも多いし、時には口付を交わすこともある。
そして、言葉少なに抱き合うこともあった。

罪悪感がないわけじゃあない。
だからと言って、そんなものの為に全てを諦められるほど、この想いが軽いものでないことは嫌という程思い知らされていた。

「は…っん、…っぁ」

案の定押し倒された寝台の上で思う。
諦めたことの多さと、諦め切れなかった唯一。
恐らく、こうして逢うことも、もう、無くなるだろう。

だから、想うことだけは諦めない。
諦めてやるものか。
そう、思えるようになった。

逢えなくなったら、その分想いを残そう。
同じものは見えないかもしれないけれど、同じ想いは描けるだろう。
同じ音は聞こえないかもしれないけれど、同じ想いは謳えるだろう。


「なぁ、ロラン」
「ん?」

与えられた熱に翻弄されながら言う。
明かそうとしている、この秘密を告げたら、こいつがどんな反応を見せるのか。
それを想像して、ちょっと可笑しくなった。
思わず声を立てて笑いそうになって、慌てて口を押さえる。

「なに?」

訝しげな相手に口付を一つ落として、俺は改めて口を開いた。

「俺さ、今、自伝書いてるんだよ」
「…自伝?」
「そ、自伝」

悪戯を思い付いた時のような、不思議な高揚感があった。

「俺の人生、洗いざらい本音一本で書き殴った暴露本」
「………サトリ、それって」

そこで言葉を切ったロランに、何?と聞き返してやれば、彼は苦笑を零した。

「もの凄い恋文、だな」
「だろ」

想像通りの反応が返ってきて、笑う。

「って言っても、この世に一冊。鍵付きにして、数百年は開かないような封印掛けるつもりだけどな」
「それは、ずいぶん頑丈だな」
「当たり前だ。そこらのヤツに読まれてたまるかよ。…まあ、数百年後にでも発見されて、歴史の教本の隅にでも一文が加わればこっちの勝ちって感じ」
「勝ちって…、なんか勝負みたいなんだけど」

勝負、か。言われて思う。
そうかもしれない、と。
俺の人生を掛けた、仕様もない意趣返し。
諦めの悪い人間の、最後の悪あがき。
そんなものなのかもしれない。

「っんあ…!――ちょ、何だよっ急に…っ」

と、物思いに耽りかけた身体に性急な愛撫が施され、思わず声が上擦った。

「いや、何か悔しいな、と思って」
「何が…っ」

悔しいって、何だ。
今の会話のどこに悔しがる要因があるのか分からず、俺は声を上げる。

「だって、その自伝、数百年後に誰かが読むんだろう?」
「そりゃあ、まあ。そうなるように書いてるからな、一応」

やっぱり悔しい。
子供っぽい口調で、そう零して、ロランはぎゅっと俺を抱きしめた。

「俺が一番最初に読みたい」
「………はぁ?」

思わず、呆れ返った声を出してしまった。
そして直ぐに、ああ、そう言えば。と忘れかけていた事実を思い出す。
そういやこいつ、超がつくほど鈍かった。

「あのなぁ、さっき言っただろ?封印掛けとくって」
「言った」
「んで、そこらのヤツに読まれてたまるか、とも言ったよな?」
「言った、…けど。いつかは誰かが読むんだろ?」
「だから、………あー…、お前本当っに馬鹿だな」
「な…っ!」

馬鹿と言われてむっとしているのに言い返せない。
そんな相手に、不意に愛しさが募る。
いつまでたっても、こいつのこういうところは変わらない。

「だから、お前以外には開けられないようにするっつってんだよ」
「……?…それって、どういう…?」
「お前に、魔力のこと云々言っても分かんねぇと思うから、細かくは言わないけど」
「…うん?」
「お前以外開けられない、そーゆー封印掛けとくってこと」
「………?」

ここまで言っても理解できていないらしい。
まあ、こいつは魔法はからっきしだ。魔力は使い方次第で、そういうことも出来るのだと理解できなくても当然かもしれなかった。

「いいか、絶対見つけろよ?俺の悪足掻き、無駄にさせんなよ?」

諦めることの方が多かった。
そして、これからもっと多くなることだろう。
だから、諦めきれない唯一を遺したいと思った。
今、ここに残すことは出来ないから、諦めたものの代わりに、唯一の想いだけは遺しておこうと。
確かにここに在った、確かな想いを、遺しておこうと思ったのだ。

「俺の最初で最後の恋文だ、お前が最初に読んでくれなきゃ困るんだよ」

そう口にしたら、何故だか泣きたくなった。
腕をまわして、肩口に顔を寄せる。

「分かった。見つけるよ、一番最初に。細かいことは良く分からないけど、俺が一番最初に読む。それで良いんだろ?」
「………うん」

分かってるのか、分かってないのか。
正直心許無い気はしたが、こいつがそう言うのだから、きっとそうなるのだろう。
そんな気がした。

「でも、一つお願いがあるんだけど」
「何だよ」
「その時さ。君も一緒に読んで欲しい」
「………?」
「その時も、君に隣にいて欲しいんだ」

分かってるのか、分かってないのか。
それがどんなに難しことなのか、分かっていないはずはないのに、こいつが言うと、信じたくなった。
信じられる気がした。

「うん」

諦めることの方が多かった。
そして、これからもっと多くなることだろう。
だからこそ、遠く先の、その約束を諦める気にはなれなかった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うっわー、らぶらぶ。
そして、ベタベタな話ですねー。ははは。

ちなみに、サトリさんの自伝とやらは、数百年後に生まれ変わった彼ら(生まれ変わって欲しいものです)によって発見され、サトリさんの希望通り、その時代のロランさんが初読者になります。
内容は、想像にお任せですが、
恐らくまともなこと書いてる風を装って、実は壮大な惚気話だったり、愚痴だったり、サトリさんらしいことが延々綴られていると思います。
んで、最後のページは隠しになってて、糊付けされているんですが、
多分、一行そっけない筆で「I love you」って書いてありますよ。
数百年後のロランさんではなくて、自分のロランさんへ贈った言葉です。
恥っずーーーーーーーー!!!!!!
サトリさん、恥っずーーーーーーーーー!!!!!!!!

とまあ、何だかんだで未来編とか途中まで書いてたんですけど、我に返って消去しました。
なんかもう、ロサマじゃない、それ、とか思ったの…orz








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送