「…お前、なんか…俗に言う『ノリノリ☆』っつー状態に見えるんだが…。俺の気のせいか?」 「え…?サトリは乗り気じゃないの?」 「……………」 ――あれ?こいつってこんなに馬鹿だったっけか? 俺は呆れを通り越して、もはや感心に至る心持だった。 ことの発端はこうだ。 デルコンダル王から紋章を貰い受けるため、キラータイガーとの決闘に挑むことになった。 結果は俺達の圧勝に終わったのだが、どうやらそれがいけなかったらしい。 圧勝も圧勝。馬鹿力なコイツの華麗なる一太刀といものに魅せられた王が、とんでもないことを抜かしやがったのだ。 「どうだ?私に代ってこの国の王になってみる気はないか」 とか、何とか。要約すればそんな感じだ。 もちろん冗談半分だということは分かっていたから、俺達はそれを丁重に辞退したのだ。 だが、彼の王も冗談だからこその軽いノリで、 「では、1日だけというのはどうだ?」 なんて言ってきて引き下がらない。 終いには、かつてロトが『地上』のロマリアという国で、一時王の代わりをさせられたという逸話まで出してきて俺達を説得しにかかる始末。 ――いい加減にしてくれよ。 そうやって胸中で零していると、不意に隣りから声が上がる。 「陛下。一日だけ、というのであれば」 はぁ!?何言ってやがんだコイツ!!! ………。 …そして、まあ、今に至るわけだ。 「お前、その服マジで悪趣味だぞ…」 ロランが纏うデルコンダル王と同じ装いに半眼を向ける。 良く言えば野性的で豪奢な。 悪く言えば粗野で成金な。 ロランもそれは分かっているらしく、ははっ、と苦笑して見せる。 だが、懲りてはいないらしい。 『1日デルコンダル王』と言っても、予想通り、一日王族並みの待遇で持て成されるということに止まった。 まあ、それ以上のことがあっては至極困るのだが…。 この王宮で最も贅をこらした部屋なのだろう。 ルーナと別れ、俺達にと宛がわれた部屋(何故一人部屋じゃないのか謎だったが)に向かえば、用意されていた服に絶句した。 デルコンダル王もどきの服と…、 言うなれば、『バニースーツ』。 俗に言うバニーガールの装い一式だ。 「ふざけんな…っ!!!」 もちろん、言ったのは俺。 それを、まあまあと宥めるロラン。 罵詈雑言を叫ぶ俺をよそに、さっさと王の装いとやらに腕を通すコイツの気がしれない。 「サトリもそれ着たら?」 着たら?だと。何をだ!コレをか? ついにコイツの頭、腐っちまったのか? バニースーツを握りしめ、怒りで真っ青になったり真っ赤になったりしている俺を見て、ロランは仕方がないな、とばかりに俺の服に手をかける。 折角用意して下さったのだから、と諭すように言われ更に頭に血が昇った。 「バカ!っざっけんな!!やめろっつってんだろ…っ!」 俺は着ねぇ。絶対着ねぇ。何が何でも着ねぇ! 「そんなの着るぐらいなら、裸でいた方がマシだ!」 …今になって思うと。 そうやって、半ばパニックになって言ったその一言が悪かったんだろう。 俺は今、半裸でロランの膝の上というどうしようもない格好になっている。 もはや泣きたい。 何がどうしてこんなことに…。 「サトリ、似合ってるよ?」 怒。一言で言うなれば正にそれ。 「ロラン…さん?似合うも何も、俺、服着てないんですけど?」 ドスの効いた声で凄めば、はい、と音符が飛び出しそうな声音と共に、喉元に何かをつけられた。 カチリという嫌な音に恐る恐る手を伸ばせば、しっかりと首に嵌まった高質な感触に頭が真っ白になる。 「ロ…ラン、王子…様。これって、もしかしなくても首輪というやつなのではないでしょうか?」 「うん、そうだろうね?」 「へぇ、やっぱりそうなんですか〜…―って違ぇだろ!俺はそういう回答を求めてないっっ!!」 「いや、でも、何だか色々と用意して下さったようだし。何も使わないというのも失礼にあたるかなぁ…って」 「そういう問題じゃないだろ!」 と、そこで俺は認めたくない事実とやらに思い至った。 色々用意して下さった、って何をだ? 意図的に視線を外していた「用意して下さったモノ」とやらを怖々見遣れば、今度こそ俺の意識は遠退きそうになった。 王子サマにはとてもとても口にできないようなアレやコレやが所狭しと…。 そして思い当たること。 「…な、なぁ…、ロラン…」 「ん?」 ニコニコと穏やかに頷くコイツに反して俺の顔は真っ青だ。 「つまり…さ」 「うん」 「デルコンダル王は…」 「うん」 「俺達のこと、…その、そういう…」 「そういう、って『恋人』ってこと?」 「わーーーーっ!止めろよ、わざわざそういうことを口にすんな!!」 「だって、事実じゃないか」 厳密にそうとは言えないが、それに近い関係であることは認めざるを得ないだろう。 「だからまあ、つまり…、デルコンダル王は俺達のことに気づいてるってこと、だよな?」 「うん。そうだろうね。って言うかサトリ風に言うと『モロバレ』ってやつだと思うよ」 「――――っっ!!!」 羞恥で声にならなかった。 そして夜が明ける。 一日デルコンダル王はどうだったと訊く彼の王に対し、 上機嫌で受け答えるロランが眩しい。 王とロランの意味深な会話に、俺は無性にサマルトリアに帰りたくなった。 ―――お兄ちゃんは、リアに会いたいよ。 遠い彼の地で俺の無事を祈ってくれているだろう妹の笑顔を思い、青空に目を遣れば、やけに沁みて…。 昨夜の出来事は、さっさと忘れちまおう。 そう心に誓った。 |
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