「今なら、まだ、あんたを逃がすことも出来る」

ロンダルキアを前にして、傍らの男から漏れた言葉に、サマルトリアの皇子は瞠目した。

「久しぶりに口を利いたかと思えば…、お前らしくないな」

破壊神シドーの贄として、一人密かにサマルトリアを出されてより、たった一人だけ付けられた護衛。それがこの男だった。
ローレシア出身の剣士だということ以外何の素性も分からない者を宛がわれた時点で、サマルトリアが自分を真にシドーの贄としたくないという意向は分かった。
恐らく、ハーゴン側には、自国の皇子を差し出したという事実のみで保身を図ろうとしているのだ。
一人密かに国を追いやられたのも、アレフガルド側にはその事実を知られたくないという証。
真実シドーの生贄となられては、ロトの血筋としてまずいのだろう。アレフガルド全体を敵にまわしかねない。
国は、皇子がシドーのもとに辿り付くことを望んではいない。
保身と体面。その二つを立てるためにも、サマルトリアは、旅の途中での皇子の絶命を望んでいるのだ。

「分かっていると思うが、サマルトリアはあんたの死を望んでいる。もちろん、贄としてではなく、だがな」
「そりゃあ、もちろん分かってるさ」
「なら、何故逃げない?あんたが、今、ここから消えたところで、誰にも分かりはしない。皇子として生きることは不可能だが、一人の人間として生きていくことは可能なはずだ」

いつになく饒舌な相手に、サマルトリアの皇子は暫く驚いたように目を瞬かせていたが、不意に可笑しそうに笑い出した。

「この期に及んで何を言うのかと思ったら…。あ〜、可笑しいっ」

堰を切ったように笑が込み上げる。この男は何を言っているのか。
堪え切れずに声を立てて笑っていると、男は苛々しながらサマルトリアの皇子を睨む。

「何が、可笑しい」
「何が可笑しいって、そりゃお前…。…だって」

一瞬そこで口を止める。
分かりきっていた事実ではあったが、言葉にするには勇気がいった。

「だって、何だ?」

再度問われて、サマルトリアの皇子は、仕方ないと口を開いた。そして軽く息を吸う。


「だって…。お前は俺を殺すんだろう?」
「………っ」


やっぱりな。
この男にしては分かりやすい反応をとられて、疑念が確信に変わった。

「俺が逃げ出したら殺すように父上に言われてるんだろ、お前。そんでもって、万が一にでも無事にハーゴンのもとに辿り付くことがあったら、贄とされる前に殺せとも言われている。…違うか?」
「…………」
「別に今更隠す必要もないだろ?どうせ、ロンダルキアはすぐそこだ。もうすぐ殺す相手に気を遣う必要は無いと思うぜ?」

言ってやった。長い旅の最中、何度となくこの男に言ってやりたかった言葉だ。
サマルトリアを出てからここまでずっと二人でやってきて、いつも胸につかえていたこと。それを口に出せて、サマルトリアの皇子は清清しい気分だった。
これで気兼ねなく、こちらも本心を語れるというものだ。

「何でだ…っ?」
「何が?」

今日は本当に珍しい。苛立ちを吐き出すように感情も顕に呟く男に、サマルトリアの皇子は訊き返す。

「あんたは殺されることが分かっていた。なら何で、さっさと俺を殺して逃げなかった!?」
「…だからなぁ、何でお前は逃げることしか考えてないんだ?」

呆れた声音で返せば、男は明らかに訝しげな眼差しをよこす。

「俺はみすみす殺されてやるつもりはないぜ?もちろん、素直に生贄にされる気も無い」
「どういうことだ…」
「もしお前が俺を殺すと言うのなら、俺はお前を殺してでもシドーのもとに辿り付く」
「…………」
「そして、たった一太刀でもいい。ハーゴンに一矢報いるつもりだ。まあ、欲を言えば相打ちにしたいんだけどな」

あっけらかんと言ってのける皇子に、男は無性に怒りを覚えた。理不尽な悔しさが胸を塞ぐ。

「あんたなっ…!」

その悔しさに俄か情が混じる。

「…っお、おい!なんだよっ」

男は衝動的に、自分より一回り華奢な皇子をその腕の中に抱きこんだ。溢れる悔しさに思わず力を込めれば、皇子は痛いと言ってもがいた。
かつて一度抱いた時よりも、さらに細くなっている肩に額を押し付ける。

「分かった。」
「何が?」
「俺があんたを必ずシドーのもとまで送り届ける。」
「…おい、それだとお前がっ」

お前が殺される、とでも言いたいのだろう。
だが、男はその先を言わせずに続けた。

「そして、絶対にあんたを守る。死なせない」
「なっ………」
「だって、俺はあんたの護衛だろう?」


腕の中は息苦しかった。
力を込められ、背に食い込んだ指も痛かった。
それでも。
それでも、その場所は、とても温かだった。
だから、縋ってみても、信じてみても良いのかと思った。


「そう、だった…な。お前は、俺の護衛だった」
「ああ」

何とか自由になる片手を男の背にまわす。
そっと、少しだけ力を込めた。




ロンダルキアまであと少しだ。
己の境遇を嘆くことはしないが、最期まで足掻くのは自分の自由だと思っている。
皇子として、ではなく、一人の人間としての意地だった。

ロンダルキアを越えた時、それは、二人の意地となっているのかもしれない。



そうなることを、希う―――



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とか何とか、なんちゃって殺伐えせファンタジー妄想。意味不明だZE☆
でも、すっごい楽しかった(笑)

もはや、ロレとサマじゃない…orz




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送