「一晩3000G」


彼は、僕の決死の告白に、そんな台詞を返してきた。
一瞬何を言われたのか理解できなかった。
が、彼の次の言葉で、その意味を知ることになる。

「もちろん、1Gもまけてやるつもりはねぇからな。
まぁ、3000もあったら相当上等な女が買えんじゃねぇの?
お前も、馬鹿なこと言ってないで、もっと建設的なことでも考えろよ」

呆気にとられたのは最初だけだった。
すぐに、悔しさと怒りが込み上げる。
僕が真剣に訴えた想いは、性質の悪い冗談ととられたのか。
…あるいは、彼が性質の悪い冗談として聞き流してしまいたかっただけなのか。
それは分からない。
けれど、どちらにせよ僕の想いが受け入れられなかったのは事実だ。
僕はそこで止めておけばよかったものの、売り言葉に買い言葉。
意地の悪い気持ちも湧いてきて、さっさと話を切り上げようとする彼に詰め寄った。

「3000でいいんだ?」
「え…、あ、ああ。」

まさか、僕からそんな言葉が返ってくるとは思わなかったのだろう。
彼は、驚いた表情を見せた。
まあ、それはそうだろう。
3000Gといったら、1月は裕に生活できる額だ。
懐に余裕があるわけでもないこんな旅の最中。僕がそんな交渉に乗るわけがないと踏んでのことだったに違いない。

「じゃあ、1年だったら1095000G?」
「は?」

何を言い出すんだ、こいつは。そう呆れ果てた顔で僕を見返す彼だが。
3000×365。律儀に計算したのだろう、彼は数秒後に、まあそうなるな、と付け足してきた。

「それなら、僕は君に54750000Gを払うよ」
「………っ」

流石に計算が速い。僕の言った額を聞いて彼は声を喉に詰まらせた。

「国に帰れば、払えない額でもない」
「…国の金だろ?お前のものじゃない」
「時間の問題だよ。どうせ直ぐに王座を押し付けられる」
「だからって…っ」

僕が今どんな顔をしているのか。自分では分からない。
けれど、彼の顔を見ていれば想像できた。
余程切羽詰った顔でもしているのだろう。
彼は、少し怯えの入った表情で一歩後ずさった。

「1晩3000G。言ったのは君だ。今更それを撤回する気はないだろうね?」
「……………」

意地悪くそう言ってやれば、彼は行き場のなくなった視線を足先に落とす。
多分、僕は怒っていたんだと思う。
もちろん、それは冗談のように扱われた僕の想いに対してでもあった。
でも、それ以上に。
彼が自分の身を、金を対価に差し出すと言ったのが気に食わなかったのだ。
もちろん、彼が冗談のつもりで言っていたのは分かっていた。
それでも許せなかったのだ。
だから、それにつけこんだところで、僕に非は無い。
煮え立った頭の中で、僕はそんな屁理屈を捏ねて、戸惑いの隠せない彼の腰を引き寄せた。


「54750000G。君の50年を買わせてもらうよ」





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