脂ののった鳥肉を香辛料で味付けし、炙っただけの簡単なものだが、これがなかなかに美味しい。
下手に洒落た料理よりも、熱々としたそれを手でつかんで口に運ぶのは、何より、「食べた」という気分になる。
久しぶりのまともな食事だ。
サトリは満足げに、鳥の骨を皿に捨てると、指先に付いた脂をちゅっと音を立てて吸った。
食べ終わってしまった鳥に、少しばかりの物足りなさを感じ、知らず唇に付いていた脂も舌先で嘗め取ってしまう。
と、そこで不意にどこからか視線を感じて。サトリは向かいに座る相棒に顔を向けたのだった。

「なんだよ?」

やたらに。
特に、唇に視線が集中している気がして居心地が悪い。

「いや、美味しそうに食べてるなと思って。足りなかった?もう少し頼もうか?」

すれば、こちらの居心地の悪さなど微塵も感じさせない笑顔で、そんなことを言われる。
珍しい。

「いいのかよ、んな贅沢して」

倹約家ではないが、旅空に慎ましい食事を余儀なくされている今、諸手を挙げて喜ぶわけにもいかない。
財布の管理を任されている身としては、少々思い止まってしまうのも仕方がないだろう。
だが、返ってきたロランの言葉は軽いものだった。

「良いんじゃないか?今日は宿にもありつけたし。たまには好きなだけ食べて、気持ち良く寝るって言うのもありだと思うけど?」
「ふぅん。そんなもんか?ま、お前がそう言うなら、遠慮はしねぇけど」
「そうそう、たまには、ね。」

やはり何か変だ。
普段から機嫌の機微を表に出す奴ではないから、良い時も悪い時もあまり変わらないロランの様子が、今日は少し上向き過ぎる気がする。
まあ、しかし。機嫌が良くて困るものでもない。
この際だ。お言葉に甘えて慎ましやかな贅沢を。
そう結論を下し、サトリは新たにいくつかの料理を注文したのだった。



□■□



「誘ってるのかと思った。」
「はぁ?」

思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
宿の部屋に着くなり、そんなことを言われたら、誰だって驚くのではないだろうか。
誰が何を誘っていると言うんだ。
訝しむ顔付きのままロランを見返しても、彼は全く動じない。
むしろ憮然としたものを感じる。

「無自覚でも同罪だから。」
「は?言ってる意味分かんねぇんだけど」
「四の五の言うな」
「って、お前なぁ。なんかさっきから変――んんっ!?」

…やっぱりだ。
突然熱烈に口付けられて、サトリは納得した。
こいつ酔ってやがる。

ふわりと漂ったアルコールの香に確信する。
一緒に食事をしながら、気付かなかった自分もどうかと思うが。いかんせんこちらも食事に夢中だったのだ。

「あのなぁ。俺は酔っ払いの相手をするほど暇じゃねぇんだけど」
「僕は酔ってない」
「あーはいはい。分かった分かった。酔ってないってことにしてやるから、さっさと寝ちまえ」
「いやだ。」
「嫌って、お前なぁ」

こうなるとロランは強情だ。
普段は酔いもしないのに、疲れか、体調か。はたまた気持ちの問題か。
たまに、ころっと酔ってしまうことがあるのだ。
そんな時はたいてい、今の様に、聞き分けの無い子供じみたことを言い出したりする。
普段が普段だけに、そのギャップには驚かされた。
だが。もしかしたら。
いつもは、その年齢以上に大人であろうと、肩肘をはっているだけなのかもしれない。
そう思うと、つい甘やかしたくもなってしまう。
つまりは。そう思ってしまった時点で、サトリの負けなのだろう。

「だって、食欲も満たされて、安全な寝床も確保されてるなら、することは一つだろ?」
「なっ、おま…!その台詞は流石に問題があると思うぞ!?」

前言撤回だ。
子供じみた、なんて可愛いらしいものじゃない。
これでは、その辺のオヤジと変わらないではないか。

「もういいから、ほらっ」
「全然良くねぇって、――ひゃっ」

問答無用とばかりに、服をたくし上げられ、思わず変な声が口をついた。

「ロランやめろって!」
「なんで。君だって、好きなだけ食べて気持ち良く寝るって意見に賛同したじゃないか」
「ああ?…って、そういう意味だったのかよ?ありえねぇーっ!」

迂闊だった。まさか、あの時から既に相当酔っていたとは。

仕方ない。こうなりゃヤケだ。
脱がそうとしてくる相手に負けじと、サトリも相手の服を脱がしにかかった。

たまには腹一杯食べて、気持ち良く寝るのもありかもしれない。

腹を括ったが最後、二人してベッドに縺れ込むのに時間は掛からなかった。






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