「ロランっ…、ロラ、…んっ、ぁ」 焦点の合わなくなったその潤んだ瞳も。 熱を孕んだ吐息の合間に紡がれる己の名も。 その何もかもが、常の彼からは想像のできないものだった。 こうして肌を重ねるようになってから、一度だって彼は自分を見失ったことなどなかった。 いっそ、そのストイックなまでの頑なさが、いじらしくもあったのだ。 だが、今日の彼は違った。 感覚の成すがままに声をあげ。 強請るように首に腕をまわし、自ら足を絡めた。 どうしたのかと問うても、彼は何も答えず。 微かうつつに戻ったかに見えた瞳が、すぐまた快楽の淵へと堕ちていった。 言葉にもならない、甘やかな嬌声。 意味を成さないその音の波紋の中。 だが。果てを迎えたその時。ただ一言、彼は呟いたのだ。 つと一筋の涙を頬に伝わせ。 たった一言。 ただ一言。 「ごめん」 と。 彼が、何に対してそれを言ったのか。 その時は分からなかった。 だが。今なら分かる。 いや、今、この時まで分かろうとしなかったのかもしれない。 分かっていて、分かりたくなかっただけなのかもしれない。 あの日。目が覚めるとそこに彼はいなかった。 彼の姿も、彼の温もりも。 彼の存在を肯定する全てのものが、消えていた。 彼の消息を死に物狂いで探したのは言うまでもない。 けれど、一向に手がかりは掴めず。 やっとの思いで手に入れた彼の痕跡は、認めたくはないものばかりだった。 ああ。今なら良く分かる。 彼の謝罪の、その、意味を。 ロンダルキア。 雪に閉ざされた、邪教の塔。 僕達は、そこで、再び出逢った。 「ロラン、殺し合おうか?」 |
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