たった一言の言葉で、本当に心臓が痛くなるのだと。
吐きそうな程気持ち悪いのに、平然と笑えるものなのだと。
そして、そんな自分の状態を冷静に分析して、導き出した有り得ない答えに衝撃を受けたり。

兎に角。そんなどっかの三文小説みたいなことが、己の身に起こるとは思いもしなかった。

「さっき抱いた女がさ――」

へぇ。ふぅん。そう。
大分遅くに落ち合った酒場で、軽めの夕食をとりながら、向かいに座る相棒の口から発されたそんな台詞に、相槌を打つ。
平然と。当たり前のように。そして、世間話のように。
だってそれは実際に世間話だ。それ以下でもそれ以上でも無い。
城に居た時だって、兵士達のその手の会話に遭遇することなんか幾らだってあった。
だから別にどうも思わない。本当にどう思うことも無かった。
だってそれは、本当に世間話のようなものだったから。

なら何で。どうして。
俺は今、こんなにも気持ちが悪くて。心臓に剣を突き立てられたように、痛くて痛くて。
ナイフを握る掌がじっとりと湿ってきて、冷たく冷たく冷えていくのだろう。

へぇ。ふぅん。そう。
それでも、いつものように笑える。軽口を叩ける。
だってこいつは。俺の向かいに座るこいつは。ロランは。俺の相棒で、親友だ。
友に向ける態度は、反応は、これが正解のはずだ。
実際今まで、こいつ以外の奴らにはそうしてきた。何の疑問も感じずに。
じゃあ何で今。俺はこんなにも、吐きそうな程気持ちが悪いのだろう。

気持ち悪いと感じた事実に驚愕した。何でそんなことを俺は思ったのか。感じたのか。
そんな疑問を自分に向けてみたら、馬鹿みたいにあっさりと答えが出てきそうで、俺は慌てて思考を止める。
そんな答えは絶対に認めない。
だっておかしいじゃないか。変だ。
俺は、こいつと相棒でいたい。親友でありたい。本当にそれ以上のことなんて考えていない。
望んでもいない。それは本当で。絶対で。

なら。何で。

俺は、あいつが女を抱いているとこを想像して、欲情したんだろう。できたんだろう。
こんなに吐きそうな程気持ちが悪くて。心臓なんて今にも止まってしまいそうなぐらい痛いのに。
別に、あいつをどうこうしたいわけじゃない。されたいわけでもない。
本当に、そんなこと思ってもいないのに。
ロランに欲情できる自分に驚いた。
驚き過ぎて、自分の性癖を疑って、試しに他の男で想像してみたら、怖気が走って止めた。
そして、そのことに一安心したのも束の間。
じゃあ、ロランに対する俺の感情は一体何だというのだろう。
そう思って、またも襲い来る吐き気。
ロランが抱いたという女に対する嫉妬で、こんな馬鹿みたいに心臓が痛むというのなら、それはそうなのだろう。
この際、それはそういうことだと認めてしまったって構やしない。
相棒で、親友だから。俺はロランをそういう意味で、本当に好きだから。
そこに嫉妬を覚えることが有ったって、そこまで変なことでもない気がする。
だから。それはもういい。それでいい。

だけど。それだけじゃなくて。
相棒を、親友を、俺はそういう対象と見られるのだという事実に打ちのめされた。
本当に、本当に、そんなこと望んじゃいないのに。

サッキダイタオンナガサ――

その音の連なりが頭を体をぐるぐる回って気持ちが悪い。
それでも、そんなあいつを想像して、自分の手であっけなく達ってしまったことに絶望した。
あいつを思い描いて達っせた事実に、呆然となって、ショックを受けて。
あいつに申し訳なくて申し訳なくて。
気持ち悪くて仕方が無くなって、申し訳なさと、心臓の痛みと、増した気持ち悪さに、泣きながら吐いた。

どうして?いつから?
俺は絶対に。誓って絶対に。あいつのことを、そんな風には思っていなかった。
相棒で、親友で。
本当にそれだけで良いんだ。それが良いんだ。それが最良で最高なんだ。
本当にそう思ってる。
今だって。あいつを思って、自分を慰めた後でさえ、全くその思いは変わらない。
だから、こんな想いは認めない。
それ以前に。認めるも何も、俺はそんなこと思ってもいないんだから。
だから、もし仮に、この感情がそういうものだったとしても。
俺は何があっても、それを明かすことはないだろう。
誰にも。もちろんあいつにも。
絶対に言わないで。こんな感情無かったことにして、人生を終わらせてしまいたい。
だってこれは友情なんだから。それでいいんだ。

例え、この先、何度もその痛みと吐き気に襲われることがあっても。





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