我が主との出会いは、商業都市ムーンペタの武器屋であった。
少年然とした姿ではあったが、主が武器屋に足を踏み入れた時、その場の空気が一変したことを、今でも良く覚えている。
凛とした態度、そしてその容姿。
一目でその少年が、市井に交じり暮らす者ではないことが知れた。
それだけの特別な何かが、彼にはあったのだ。

だからこそ私は思ったものだ。
何故このような少年がこんな場所に訪れたのか、と。

その少年と共に並び、もう一人の少年が、しきりに武具を物色していた。
どうやら、その少年に武器をあつらっているらしい。
そして。ああでもない、こうでもないと悩み抜いた末、彼らは私の前までやって来たのだ。

私は槍の中でも長槍の部類に入る。それなりの重量もある。
我が兄弟達の多くは、ムーンブルク兵のもとに集っていたが、
このような細身の少年に私が扱えるものかどうか。
そう一抹の不安を覚えたのも無理からぬこと。
彼はそれだけ線が細かったのだ。華奢と言ってもいい。

だが、彼は私を手に取った。
何の躊躇いもなく、しっかとその手に握り。
いままで散々悩んでいたのが嘘のように、彼は私を命預けるものとして認めたらしい。
ぐっと握られた柄から、彼の意志が伝わってきたように感じたのは、私の間違いではあるまい。

その時私は確かに感じたのだ。
彼の背負ったものの正体を。そして、その、重さを。
これが、長い道行になるだろう、ことを。


それが、我が主との出会いであった。



□■□



槍術のなんたるかを心得ていた主だったが、
やはり最初のうちは私の重さと、その扱いに臍をかむこともあった。

だが。あれから二年近くの月日を経、我が主は変わられた。
私では主の役に立てない程に成長を遂げられたのだ。
私では主に見合わない。他にも貴方の助けとなるものも居よう。
そう思えども、我が主が私を手放すことは無かった。

幾多の戦火を共に乗り越え、そしてとうとう私達は邪神へ挑もうとしている。
我が兄弟達はムーンブルク落城と共に散ったというのに。
世に名を馳せたる名槍でもない私が、今、主と共に「神」へ挑もうとしている。

何たる誉れか。

「最後まで、よろしく頼むぜ?」

共に歩んできた二人の仲間ではなく、私に向けられたその言葉。
降臨した「神」に知らず震える主の昂りと恐怖が、我が身をもって伝わる。

案ずるな、我が主よ。
我が身崩折れようとも、貴方には私に代わり盾となり矛となる者がいる。
それに甘んじることを厭う貴方には言えぬが、あの者は命に代えても貴方を守るであろう。

だから案ずるな、我が主よ。
あの者に私の役をもっていかれるのは、正直癪ではあるが。
貴方とあの者が睦み合っている姿を見たとき、私は思ったのだ。
あの者に向ける顔の、何と幸福であることか。
その時、思わず。あの者を突き殺してやりたい衝動に駆られたものだが。
それはもう、いい。
我が主の幸福こそ、私の望み。

だから案ずるな、我が主よ。
我が身崩折れるまで、貴方と共にあろう。



□■□



そして、今。
私は、サマルトリアの宝物庫に居る。
数多の名剣名槍が並ぶこの場で、私は鈍く光る鉄身をあずけながら、「伝説の武具」の名を冠した。

ムーンペタを出てより数年。
この城までの道行きの中で、私は貴方と共に多くのものを見、多くのものを知った。

そして。
時折顔を見せるあの者と貴方が、ここで密かに逢瀬を重ねていることも…。

私はいつまでも貴方の幸福を祈ろう。







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