「サトリ、そろそろ起きなよ」
「あ〜。後、5分」
「後5分って、君、さっきからそればっかじゃないか」
「……んー?じゃあ、後15分」
「って、増やしてどうするんだよっ…」

生温いような今日の空気に、だらだらしたくなる気持ちは良くわかる。
人だけじゃなく、僕たちの愛猫も、飼い主と同じく部屋の隅で伸びているから、
まあ、今日の気だるさは致し方ないものなのかもしれない。
百歩譲って後5分ぐらい寝かしてあげても良いか。
そう思い、サトリがだらだらしているのを見守ること早30分。
流石のロランも、彼の寝汚さに痺れを切らし始めた。

「その姿、君の父君が見たら泣くよ?」
「あー。俺、城でも割とこんなんだったから、今更驚かないとおもうぜ?」
「え、そうなの?」
「そ〜そ〜。よく、メイド達に、眠りの森の王子って騒がれたもんだし」
「何だよその訳の分からない二つ名…」
「さぁな、俺も女の考えることは分かんねぇよ…、ってことだから後10分な」
「って、サトリ!!」

はいはい。分かってる分かってる。
やる気の無い口調で嘯いて。サトリはロランに背を向けるようにベッドの上で丸くなった。
すると、すぐに寝息のようなものが聞こえてくる。

あの頃とは違い世界も平和になった。国同士の争いの気配も今は無い。
それに、何と言っても。今僕達は、新婚よろしく二人(と一匹)で暮らしてるわけだから、
少しぐらい羽目を外したって良いのかもしれない。
でも、折角の休日だ。二人で有意義に過ごしたいじゃないか。
それがロランの言い分だった。
だが、如何せんサトリの睡眠欲の前には歯が立たない。
どうしたものだろうか。このまま引き下がるしかないか…。
そう、サトリを起すことに諦めを覚え始めたロランだったが、何を思い付いたのか。
ぽんと手を打つと、すーすーと気持ち良さそうに寝息を立てているサトリの耳元に口を寄せ、ぼそりと呟いた。

「起きないって言うなら、このまま抱くよ?」

いつもの彼が、こんな台詞を言われようものなら、
馬鹿野郎、ふざけるなと怒鳴って、顔を真っ赤にしながら殴りかかってくるぐらいはする。
だからロランも、これで飛び起きてくれれば良いなぁ、としか考えていなかったのだ。
もちろん、誓ってやましい気持ちもなかった。
が。どうやら、サトリの睡眠欲はロランの予想を遥かに越えていたらしい。
眠そうにもごもごと続いた相手の台詞に、言ったロランの方が赤くなる。

「あ〜、お構いなく…。俺、寝てるから、好きにして」

………え?
…………は…?
瞬間思考が止まった。
ど…、どういう意味だ!!
予想外のサトリの返答は、ロランを困惑させるに十分過ぎた。
お構いなく。寝てるから、好きにしていい。というのは、つまり、その、そういうことなのか。
いや、まさか、そんな。
でも、サトリが構わないって言ってるんだし。うん。

悩むこと、この間1秒。
相手が寝ぼけているという可能性は、この際置いておき、ロランは神妙な顔つきで、ベッドに足をかけた。
苦節云年。いや、正しくは十云年。
山あり谷ありで、漸く添い遂げられたのだ。何度抱いたって飽きやしない。
何より僕達は今、世に言う「新婚」状態だ。
いつもつれない相手が、好きにしていいと言ったのだ、この機会を逃す馬鹿がどこにいる。

「えっと…、じゃあ、その。お言葉に甘えて…」

相手を起すという最初の主旨と変わっている気がしたが、
まあ、この際、そんな細かいことは良いだろう。
ロランは相手に体重を掛けないように覆い被さると、
寝癖で奔放に跳ねる蜜色の髪の毛をかき上げ、その額にそっと唇を落とした。

「ぅん〜?」

意識があるんだか無いんだか。
サトリはくすぐったそうに身じろいで、次の瞬間。
ふわっと、そんな音が聞こえてきそうな満面の笑みを見せた。

「っ…//////」

思わず息を呑む。
すれば。間を空けずに、ロランの頬といわず耳までもが朱に染まった。

ああ、もう、反則だ…!!!

ロランは力の抜けた体をどさりとベッドにあずけ、横からサトリを抱きしめた。
それでも起きる気配の無い相手に、呆れ半分愛しさ半分。
ロランは、仕方ないなぁと胸の内でぼやき、
つられるように襲ってきた睡魔に身を任せた。
たまには、こんな風に二人でだらだら過ごすのも良いかもしれない。


すぐに、部屋には二人分の寝息が聞こえ始めた。
そして暫くすると。部屋の隅で伸びていた猫まで混ざり、そこにはベッドの上で丸くなる二人と一匹の姿があった。





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