この散文はこちらの萌え語りを一読すると意味が通じるかと思います。


「ふふっ、そうしているとあなた達、本当の兄弟みたいよ?」

いつの間にか僕の膝を枕に眠ってしまったサトリを見て、ルーナが笑った。

「なんかそれも複雑だな」

僕の腰にきゅうきゅうと腕をまわしながらスヤスヤと寝息を立てているサトリに視線を落とす。
本当に5歳の子供だったら大したことはないのだろうけど、体は大人だ。これが結構苦しい。

「そう?なかなか微笑ましい光景よ?」

テーブルの上のソーサーからカップを掴み、まだ暖かな紅茶を一口飲むと彼女はにこにこと言う。

「う〜ん…。そう、かな?」

何と答えて良いのやら。返答に困った僕は、まだ決まっていなかった本題へ話を戻そうと、テーブルの上の地図に視線を遣った。

「明日にはこの街を出るとして、いったんベラヌールに戻ろうと思うんだけど…」
「そう…ね。私もそれが良いと思うわ」

地図から顔を上げた彼女は、少し辛そうにサトリへと視線を移した。
と、その視線に気づいたのか、膝の上の彼がうぅんと小さく声を立てながら寝返りを打った。
膝の上で器用に体を仰向けにしたかと思うと、眠そうに目を擦り、程なくしてゆっくりと瞼を持ち上げる。

「……ろ、らん?」
「ん?」

以前の彼からは想像もできないような舌足らずな声音で呟くと、ふわりと花がほころぶ様な笑顔を見せた。
すると、彼は至極幸せそうな顔のままこう言ったのだ。「だいすき」と。

「……………っ!」

瞬間時が止まった。
いや、時と言わず体も思考も止まったのだが、問題発言を残したまま、言った本人は再び眠りの世界へと落ちていってしまう。
現実に残された僕は、次第に頬へ昇ってくる血をどうすることも出来ずに、ルーナから顔を逸らすしかなかった。
それを見てルーナが楽しそうに声を立てて笑い出したものだから、何だか居た堪れない。

「ロラン〜、良かったわねぇ。だいすき、ですって」
「…………ぅう」
「何よ、何か不満なの?こんな天使みたいな子に言われて」
「あ、いや、その…うう」

ルーナがこうなると、僕はもう頭を抱えるしかない。

「でも、ほんっとおかしいわ。今の状況を以前のサトリが見たら、壁に頭打ちつけながらメガンテ唱えようとして、それじゃあ気が済まないからって死ぬ前にあなたにザラキかけてから自爆しそうね!うふふっ」
「え…?ああ、そうだ、ね?って、え、そうなの?それはちょっと………、あ、あー、うん。やっぱ、そうかも…」
「でしょう?サトリだったらそのくらいするわよ〜」

自分の頭上でそんな恐ろしい会話が繰り広げられていることにも気づかず、サトリは気持ち良さそうに寝息を立てている。
まあ、実際、羞恥のあまりメガンテぐらいなら唱えそうだとは思うが…。
そうか、その前に僕はザラキで……。
軽くショックを受けたが、納得できる自分に少し寂しくなった。

「さて、と。サトリも眠そうだし。私もそろそろ休ませて貰うわ」
「うん、お休み。良い夢を」
「えぇ、ありがとう。それじゃあ…」
ルーナは部屋のドアを開けながらそこまで言うと、ああそうだ、と思い出したように振り返り口を開いた。
「手、出すんじゃないわよ?」
「…………え?」

彼女の言葉に何の反応も出来ないまま、部屋に二人残されると、僕は苦笑した。
手を出すも何も、僕達はそんなんじゃあないのに。
……少なくとも、彼は。

「ほら、サトリ。ちゃんとベッドで寝よう。風邪ひくよ」

子供に諭すようにそう言っても、彼が目覚める様子はなく。
しかたなく、僕は彼を抱きかかえると、ベッドまで運び寝かしつけた。
幸せそうな寝顔を見ていると思う。彼の傷の、その深さを。
あんなことを思い出させたくはない。でも。
相反する思いが胸を締め付け、僕は固く目を閉じた。
すると、不意にさっきの笑顔が脳裏に浮かぶ。


「だいすき」


こうなる前の彼に言われたらどんなに…!
思うが、それは、あるはずのないことだ。

「サトリ…大好きだよ」

僕は、眠る彼の前髪をそっとかき上げて、その額に唇を落とした。







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